2012年5月6日の説教要旨

「キリストに喜ばれる道」

コリントの信徒への手紙一 7章17〜40節

人間は、農業中心の自給自足的な生活から貨幣(お金)中心の生活に変わって以来、心の中には、イライラ、ストレス、焦り、不安、怖れ等の気持ちから解放されることはありません。それは同時に、本来の農業のように、神様にお委ねして共に生きることが出来なくなりました。また自然と共存して生きることが出来なくなりました。自分の知恵と経験で全てを、切り開き、切り抜けなければなりません。病気したらどうしよう。癌になったらどうしよう。どのぐらいの蓄えが必要なのだろう。どのぐらいの保険に入っておかなければいけないのだろうか。次から次へと、悩みに悩みが噴き出てきます。

その根本的な問題は、自分の人生だから、最後まで自分で責任を取ろうとしていることです。人は長く生きたいと願い、あらゆる努力を重ねても、長く生きることができない人もいる。早く、神様のお迎えがあることを願いながら、長生きしている人もいる。私たちの人生を握っているのは、私ではなくて、神様であることを忘れてはならない。私の人生の最後の責任を取るのは私たち自身ではなく、神様なのです。

私たちも、子どもたちが独立するまでは、万一のことが考えて保険にも入っていました。ある時、夫婦にとって必要なことは葬式の費用だけでいいのだと思わされました。癌になったら、それを受け入れ、高額のお金のかかることはしないでおこう。延命治療をしないでおこう。「自分の死を受け入れよう」と思い、保険を解約しました。言葉を換えれば、生き延びるために無理をしないで、神様にお委ねしようと思ったのです。すると、お金への執着が薄れていきました。

今日の聖書の御言葉の主旨は、少し違いますが、「おのおの主から分け与えられた分に応じ、それぞれ神に召されたときの身分のままで歩みなさい。これは、すべての教会でわたしが命じていることです。」(17)と教え、「おのおの召されたときの身分にとどまっていなさい」(20)と教えています。 背伸びをする必要はないよ、と教えているのです。割礼を受けている人は、割礼を重んじるでしょう。洗礼を受けた人は洗礼を重んじるでしょう。それは当然なことです。しかし、割礼を受けた人だけが重んじられるとしても、割礼を受けなくてもいいんだよ、パウロは教えます。

人は、自分がどこで生まれ育ったのかを忘れてはならないのです。東京で牧師をしていた時、私の一生で、お会いすることがないような人々に牧師としてお会いできました。外務省の事務次官から先生と言われる、ロータリークラブのクリスマスにお招きをうけると、テレビでしか見る事のない人々の前で、メッセージをさせてもらえる。カトリックの上智大学関係の全神父を前にプロテスタントの代表のように語る機会をくださった。説教が終われば、学長や理事長や書物でしかお目にかかれない方々が、あいさつに来て下さる。私には、光栄なことであり、牧師の特権でもあります。しかし、これは本当の私ではないとの怖れが常にある。牧師になる以前の自分を忘れる危険性です。どこで生まれどこで育ったのかを人は忘れてはならないのです。至福の牧師生活の中で、「お前はどこで育ったのか」としばしば、問いかけられている。  

パウロは、どこで育っても、どのように育ってきても、そのことが大切なことではなく、「大切なのは神の掟を守ることです」(19)と教えます。よく話しますように、日曜日の「教会生活」よりも、毎日の生活の場での「信仰生活」の充実なくして、教会生活の充実はないのです。

パウロは、「キリスト・イエスに結ばれていれば、割礼の有無は問題ではなく、愛の実践を伴う信仰こそ大切です。」(ガラテヤ5:6)、「割礼の有無は問題ではなく、大切なのは、新しく創造されることです。」(ガラテヤ6:15)と教えています。大切なことは外観ではなく、信仰の中味なのです。 

キリストの前に留まる心、神様と共に生きる心、神の前で神と共に生きる姿勢、キリストから離れない決心が求められているのです。人の奴隷にならず、キリストの奴隷、僕(しもべ)として歩むことを勧めている。

パウロは最後に終末観の大切さを語ります。神様の前に立って、私たちの人生を報告し、評価される時がある。それは想定外の速さで来るかもしれないとパウロは考えていた。コリント教会の人々は結婚関連のことを、信仰の大切な問題かのように思い込んでいましたが、パウロの心には、それらの問題は「過ぎ去る、一時的なもの」であり、キリスト者は、「国籍を天にある者」でしょう、との思いがあるのです。

終末の時、神様の祝福を頂くためには、あなたがたはこの世のことに心を使わないように、生活をシンプルにしなさい。この世のことに心を使わず、ひたすら主イエスに仕えることを考えさせたいのがパウロの答えです。

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